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特にエロスな表現は無いのですが大尉がべらぼうに可愛らしいのでこちらに置いておきます。(笑)

18歳以上の方は










- A Word Beginning of “L” Side-A -


















 さて――――――。
 今の状況下にどう対処すればいいのだろう。戦況を判断することには慣れていても、いわゆる日常の、こうしたちょっとした非常事態を判断するのは慣れていない。
 彼女は――彼の上官は、今現在、ベッドに腰を下ろした時の姿勢のまま上半身だけを倒して、その場に伏せている。身を捩った無理な体制はかえって体に負担をかけるのではないかと思うのだが、きちんと寝るのも嫌、身を起こすのも嫌、医者を呼ぶのも薬を飲むのも嫌、嫌、嫌となっては手の施しようがない。
 異変に気付いたのはホテルへの帰途も大分残り少なくなってきた頃だ。腕に掛かった重心が、不意に重みを増す。覗き込んだ彼女の顔色は蒼白に近い。口を開くより先に、何でもない、と抑えた声。何でもない訳があるまいに。走れますか、と声をかけても無言。少し休みますか、と重ねて尋ねると微かに首を振る。絡んだ腕を解く。その腕を自分の肩にかけ、空いたばかりの手を彼女の膝裏に回す。そのまま姿勢を変えさせないように注意して抱え上げる。それだけなのに彼女は思わずといった風体で空いた片手で口を塞ぐ。
――少し急ぎます。すみませんがもう少し我慢して下さい――
 その声に彼女は、ほとんど吐息だけの、やっとといった様子で一言、すまん、と呟いた。それが彼にはなぜか腹立たしく思えた。
「とにかく、薬だけでも飲んでください大尉殿」
 水差しからグラスへ水を注ぎながら彼はもう一度声をかけた。このまま放っておくのは彼の副官としての立場上許し難い。
「このままでは明日以降の業務に支障が出ます。そうしたら――」
 言い継ぎながら彼は彼もまたベッドの縁に腰を下ろす。そして耳元で囁く。
――そうしたら、あの場所ロアナプラへ帰るのがもっと遅くなりますよ――
 僅かな身動ぎ。そして気だるそうに首を捻って片目だけ表に覘かせる。じっとこちらを睨みつけている。少し拗ねた眼差し。次に左手を体の下から引き摺り出し、人差指でシーツを叩く。諾と。わかったからここに置けと、身振りで彼女は言う。
 やれやれ、とんだお嬢様だ。
 生粋の労働者階級生まれプロレタリアートで、六歳年長の彼にはいまだに時折覗かせるそれがよく透けて見える。それを悪いとは思わない。その高慢さは、ある意味指揮官としてはうってつけだ。 相手が誰であろうと・・・・・・・・・堂々と頭をもたげて見下して見せるその態度が、彼女の部下の士気をどれほど高めるものなのか、彼女は知らずして知っているのだから。
 しかし今目の前に転がった白い錠剤を胡散臭そうに眺める様子には可笑しさを禁じえない。しぶしぶ一つ摘みあげ、グラスを傾け、口に運ぶと苦虫を噛み潰したように飲み込む。溜息をひとつ。それを三度、繰り返す。大きく肩で息をつく。
「一仕事、終えましたな」
 苦笑いで声をかけると、眦をきつくして彼を睨みつける。
「嫌いなものは嫌いなんだ。――何が悪い」
「はいはい」
 ついつい軽く受け流してしまったのについに彼女は腹を立てて、がば、と音がするほどの勢いで上体を起こす。
「貴様、さっきからニヤニヤニヤニヤしおって、何がそんなに可笑し――ッッ」
 音も無くグラスが落ち、音も無く零れた水は絨毯へ吸い込まれ、鈍色の染みを作る。
「――――――大尉カピターン大尉カピターン、大丈夫ですか?――急に起き上がったりするからですよ」
 早く薬が効いてくれるといいのに
――このままでは冗談ではなくこれからの業務に差し障りが出る。実働隊はすでに待機しており、例え号令がなくとも所定通り作戦を敢行出来るのだが――
 出来るとしても、彼女の存在の有無は絶大だ。彼女の存在は彼等がかつて掲げていたあの星よりも強い輝きをもって彼等を牽引し、時にその投げ掛ける輝きの作り出す影を持って彼等に安らぎの地を与える。彼女無くして今の自分は、自分達はあり得ないのだ。それをよく知っているだけにこの状況化は、正直言って苦痛だ。そして気付く。胸元にかかる吐息に籠る不自然な熱と、さらりと乾いた肌のあくまでも冷たい質感、そのアンバランスさ。冷や汗一つかいていないその不可解さ。
「――熱の、発散が、難しいのだよ、軍曹。――この体では、な」
 何の表情も無い声で彼女が言う。そろそろと不自然な体勢から逃れて身を起こし、ゆっくりと顔を上げる。柔らかな髪がその後を追って舞う。彼を見据えた目はあくまでも冷ややか。感想も感傷も求めない静けさ。
「そう変わったことではない。足を失ったものは足を失ったことに、腕を失ったものは腕を失ったことに、視力を失ったものはその事実に、命を失ったものは墓の下に収まる幸いに慣れねばならん。ただそれだけのよくある話だ。難しく考えることではない」
 しかし、と言いかけるその前に視線の一閃で封じ込められる。
「同じことだよ、軍曹。日常を送る分には何の問題もない。ただたまに・・・副作用が出る。それだって別に珍しいことではない。それも含めて・・・・・・受け入れる、それが術で、それが全てだ。――これは個人の問題だよ、軍曹。この問題をどう処理するかは、私を含めた各々が預かるところのものだ。それだけの、ことだ」
 凍てつくような眼差しを彼は暗く受け止める。
「――――迷惑をかけた、もう行っていい。――――今日のことは忘れろ。私の問題に、貴様が係わる必要はない」
「その命令には、従えません」
「なんだと?」
「その御命令には従えません、大尉殿。御一人では胃薬も飲めないような方をどうして放置しておけますか?夜中に着替えもせず、靴も履き替えず、携帯電話も御財布も持たずに外にお出掛けになるような方をどうして放っておけますか?大尉殿、私は貴女の・・・副官です。 貴女の補佐をするのが私の務めです。大尉殿が万全な状態であるのならば私も貴女の補佐に専念することが出来ます。もしそうでないのなら、そうなるように努めるのもまた私の務めです。指揮官の状態が不十分であることは隊の存亡に繋がります。それは貴女も御存知の筈です。――――そして私は、そういう上官に仕えることを望みません」
 淡い青の瞳が彼を見つめている。一瞬怒りに彩られた後、驚きに見開かれ、それはすぐ生真面目な色に変化して、じっと彼の言葉に聞き入っている。
 やがて――――――
「――――――――――――確かに」
 低い呟き。
「確かに、私は貴様の上官で、貴様等の指揮官だ。それは事実で、そのことに私は責を負っている。我々が我々の所定を完結する・・・・・・・・・・まで導くのは私の責務だ。そのためのあらゆる行方を、あらゆる問題を、ありとあらゆる攻撃を私は受けよう。そのための術ならば全てを私は受け容れよう。だがな、軍曹。それと私自身の問題を同じ局面で捉えるな。私は、決して、二度と、誰にも拘束されることは望まない。いいか、決してを拘束するな。考えるのはこの私だ。そして、私を動かすのは私自身だ」
 語気は決して強くない。けれどこの気迫は紛れもなく彼の仕える指揮官のもの。
「――だがな軍曹」
 冷たく微笑わらって彼女は言う。
「貴様がどう考え、どう行動するかは貴様の自由だ。私は所定の行動においてのみ貴様らに命令を下す。だがそれ以外については私の預かり知るところではない。命令もしない。拘束もしない。勿論強制もしない」
 彼女は首を巡らせて何か――おそらくはシガーケース、この部屋には置いていない――を探す。立ち上がると、止める間もなく煙草に手を伸ばして、火を点ける。壁に背をもたせかけて、吐き出した煙を暗い目で追う。
「忠誠や服従などは要らん。そんなものを求めるのはどこぞの愚か者の指導者どもだけだ。勿論時によっては・・・・・・従って貰わねばならん。だが屈せよと言った覚えはないし、これからも言うつもりはない。そんなものはもうたくさんだ。――多分、貴様等もな」
 白い灰が、絨毯の上へ落ちる。
「私がここにいるのはな、軍曹、ただそれがほんの少しばかり面白い・・・からだ。他に残されたものより、幾らか面白かろう・・・・・・・・と思ったからだよ。それ以外の理由などどこにある。貴様もまた、そうではなかったのか?貴様等もまた、そうではなかったのか?そうして我々は此処に・・・いる、そうではなかったのか?」
 短くなった煙草を揉み消し、新しく火を点ける。
「――――そうですね――――そうかもしれません。そうだった・・・かもしれません。大義の下に忠誠を誓った――――そんな頃があったのも、確かです」
 彼はその重い口を開いて、言った。
「ですが大尉、私が仕えるのは貴女だけです。服従するなとおっしゃるのなら、そうします。屈するなと言うのであれば、それに従いましょう。ですが私は貴女以外の誰にも仕えることを望みはしません。それが誰であろうと、例えそれが貴女の命令であっても、従うことはできません。私の上官は貴女だけ・・です、大尉殿。それがご不満なら、いつでも切り捨てて下さって構いません。――――――――多分、他の隊員も、そう言うと思います」
 沈黙が、長く尾を引いた。短くなりすぎた二本目の火を消して、三本目を選びかけた手は、彼の手に止められて宙に浮いた。
「今夜は、煙草はお止しになった方が――」
「――うるさい副官だ」
 含み笑いの声が応じる。とった手は変わらず異様に冷たい。その手を彼女は見下ろし、ついで彼の眼を見上げる。そしてつい、と視線が反らされ、眼差しが地に落ちる。沈み込むほど低く、呟く。
「――――――そんなことは、分かっている」
「はい」
「だからこそ、だ」
「――――――はい」
 ふ、と彼女が微笑わらう。
「喋り過ぎだ、今日は。――――貴様も、私も」
 冷たい手をした、冷たい肌の彼女は、淡く薄い青の冷たい瞳に不思議な明るさを乗せて、冷たく冷たく微笑わらう。






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 好き嫌いは食べ物だけではなかったのですね。大尉殿!!!(笑)錠剤一個ずつ飲むとことか凄い可愛いんですがどうしよう!どうしよう!!!(どうもこうも…)お嬢な大尉可愛いね!
 ふと気付いたんですがHIDEROのアホなコメントがステキ小説台無しに!!!(爆笑)←だから笑い事では…でも大尉&軍曹可愛いです!





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