螺旋 【第二話】






 足元に名前も知らない浪人の死体が転がる。
「ふう…これで最後かな…」
 山奥の廃屋に巣食う浪人共を始末して欲しいとの依頼があったのは5日程前の事だった。刀を鞘に納めると一息つ
いて凛は顔を上げた。風向きが変わった。鼻先に煙の匂いが漂う。
「…!」
 振り返ると暗闇の中に小さな赤い光が今にも消え入りそうに見える。目を凝らすと光がゆっくりと動き出す。
『まだ残ってる奴が…』
 影がぼんやりと人の形を成していく。討ち洩らした浪人か…そう思い刀の柄に手をかける。月明かりが徐々に影を
照らし出す。刀にかけた指先が震えた。
「単葉…」
 煙管を燻らせ佇む単葉の姿が現れた。
「一月ぶり…だな…」
 凛の顔から血の気が引いた。双葉に押さえつけられ、単葉に陵辱された記憶が蘇る。唇を噛み単葉を睨み返す。
「あんたが…この浪人達の元締めって訳…?」
 煙を吐きながら凛の足元に転がる浪人の死体を一瞥する。
「知らねぇなぁ…。ここいらに住み着いてる浪人共を始末してくれって言われてたんだが…どうも先を越されちまったら
しいな…。」
 冷たい視線が凛に絡みつく。
「それより…欲しくないか…?」
「え…?」
 単葉の言葉の意図を理解出来ず一瞬怪訝な顔をする。
「一月ぶりだろう…?…それとも…他の男でも銜え込んだか…?」
「…っ…何を…」
 視線が一瞬単葉から逸れる。単葉がそれを見逃す筈も無かった。一息に間合いをつめる。凛の鳩尾に鈍い痛みが
走った。
「…ぐっ…」
 力無く単葉の腕に爪を立てもたれかかる。唇を噛み薄れる意識を繋ぎ止めようとするが、徐々に視界が暗くなって
いく。単葉は吸い終えた煙管をしまい、意識を失った凛を軽々と肩に担ぎ上げる。





 薄明かりの灯る廃屋に人気は無かった。

 未だ意識の無い凛の身体を床に転がす。背から刀を外し、凛の背から取り上げたそれと並べて壁際に立てかけ
た。傍らに膝をつき凛の顔を覗き込む。指の背で頬をなぞり薄く開いた唇に触れる。
「双葉…」
 普段は心の奥底に秘めた感情が単葉の眼に表れる。凛のそれに単葉の唇が重なる。歯列を割り強引に舌を割り
込ませていく。
「ん…ぅ…」
 単葉が唇を離す。凛が僅かにうめいて瞼を開く。単葉を捕らえた眼が怯えたように震える。
「起きたか…抵抗しない獲物はつまらないからな…」
 先刻とは打って変わって冷たい視線で凛を見下ろす。凛の視線が単葉をそれ、壁に立て掛けられた刀を捕らえる。
すばやく身を翻し、刀に手を伸ばす。指先が僅かに鞘に触れた。刀を取るより早く単葉の腕が凛の細い腰に回されて
いた。片手で容易に凛を引き戻し抱きかかえる。
「どうした…もう少し手を伸ばせば届くだろう…?」
 空いた手で太腿を撫で上げられ、凛が身体を固くする。
「さわらないで…っ」
 腰に回された腕を振り払おうと爪を立てる。太腿を撫でる単葉の手が着物の裾を捲り上げ、下着の隙間に指を滑り
込ませる。割り込ませた膝で閉じようとする凛の脚を開かせた。単葉の指が凛の核心に触れる。指先で器用に花弁
を開かせ、撫でる。凛は唇を噛みいっそう身体を固くする。指が強引に挿入される。未だ受け入れる事を拒んでいる
凛の身体に鈍い痛みが走る。
「い…っ…!!やめて…っ…痛っ…はっ…ん…っ…」
単葉が中で指をくねらせると凛の身体が否応無しに反応する。
「初めての癖に…お前…俺にこうされて感じてたんだろ…?…あの時…」
 一月前、凛を犯した時の事を思い出す。双葉の前で凛を抱いた。まるで双葉を抱いているかのような錯覚を覚えな
がら凛を犯していた。今また凛を抱こうとしている。
『俺は…双葉が欲しい…』
 ゆっくりと凛の中から指を引き抜く。絡み付く愛液が単葉の指を濡らしていた。濡れた指先で花芯をなぞると凛の身
体から徐々に力が抜けていくのが単葉の腕に伝わる。刀に伸ばした筈の手が床に落ち、上体を支える形になった。
「抵抗するのはもうおしまいか…?」
 凛の背後から単葉の含み笑いが漏れた。







 下着を膝まで引き下ろされ獣の姿勢を取らされていた。凛の中に単葉の指が抜き差しされるたび薄暗い廃屋の中
に湿った音が響く。濡れそぼった凛の花芯は二本の指を飲み込んでいた。
「…っ…もぉ…やめて…っ…あぁ…」
 指が引き抜かれ溢れた愛液が凛の内腿を濡らす。袴をはだけると単葉の固くなった肉棒が勢いよく現れた。先端を
ねだるようにヒクついている凛の花芯に押し付ける。
「欲しいなら自分で入れてみろ」
「い…いや…」
 弱々しく首を横に振る。凛の花芯に押し当てられた肉棒が熱く脈打つのが伝わってくる。頭では拒否しているのに
身体が欲している。単葉の指が僅かに震えている凛の尻をなぞる。
「…ほら…動いてみろよ…」
 促されゆるゆると腰を動かし始める。未だ受け入れることに慣れていない狭い花芯に単葉の肉棒が徐々に飲み込
まれていく。半分程銜え込んだ所で凛の動きが止まる。
「どうした…もっと欲しいんだろう…?…動け…」
 唾液で濡らした指で凛の蕾をなぞる。再び凛が腰を使い始めると単葉の指が凛の蕾を押し広げる。
「…っ…や…っ…!うごくと…うしろにも…っ…」
「後ろにも…何だ…?」
 指が蕾に挿入される。肉棒を銜え込んだ時のそれとは違う痛みが凛の体を貫く。
「っ…あぁ…んっ…!…ひっ…ひと…はぁ…っ…!!!いっ…痛…っ」
「痛いだけか…?…どうなんだ?」
 上体を支えていた腕から力が抜け床に這い蹲る格好になった。頬が冷たい床に擦れる。単葉が指を抜き差しすると
花芯が肉棒を締め付ける。凛は声を洩らすまいと指を噛む。その仕草が痛みよりも快楽の方が勝っている事を表して
いた。根元まで挿入された指が肉壁を隔てて脈打つ肉棒をなぞる。
「ふ…こっちも気持ちいいのか…?」
 凛の唇から指が離れ甘い吐息が漏れる。小さな歯型の付いた指が唾液に濡れ光っていた。動こうとしない単葉に
焦れて凛が再び腰を使い始める。卑猥な音を立てて単葉の指と肉棒とが同時に抜き差しされる。
「ひと…は…ぁっ…!だめ…じぶんじゃ…っ…と…もっと…おくまで……しい…っ…」
 吐息混じりにねだる凛の中からゆっくり、焦らすように指を引き抜く。薄明かりの中、濡れた睫が凛の潤んだ眼を一
際艶っぽく見せる。
「もう一度言ってみろ…」
 凛の震える唇が僅かに動いた。上気した頬が一層赤くなる。
「…っと…もっと…おくまで…ほしい…」
「こうか…?」





 含み笑いを洩らし凛の腰を引き寄せる。肉棒を一気に根元まで突き入れそのまま動きを止める。凛の膝がガクガク
震える。
「ひ…ひとはぁ…っ…もっと…もっと突いてぇ…っ…もっと…!!!」
 弾かれた様に単葉が激しく凛を突き上げる。濡れた音が一層大きくなる。
「聞こえるか…?凛…お前の厭らしい音…」
 単葉の声を振り払うように凛は頭を振った。
「…い…っ…いや…!こんな…こんなの…っ…あたしの身体じゃないよぉ…っ!!!…っ…いぃ…っ…あぁ…っ!!!」
 抑制の効かなくなった甘い喘ぎ声が単葉の耳に心地よく響く。背後から凛の胸元に手を伸ばし着物の上から乱暴
に揉みしだく。凛の身体を引き寄せ抱き起こすと着物の袷に指を滑りこませ、固くなった胸の突起を探る。
「触ってみろよ…俺のモノ銜え込んでるここがどうなってるか…」
 凛の手首を掴んで下腹部へと導く。指先が単葉のモノを銜え込んだ箇所に触れる。溢れた愛液が凛の細い指に絡
み付く。
「どうなってる…?」
 囁いて耳朶に舌を這わせ軽く噛む。力無く単葉の肩にもたれかかる凛の唇が消え入りそうな声で呟く。
「ぬるぬるしたのが…あふれて…あっ…ぁ…ひ…ひとはが…うごくと…もっと…あふれちゃうよ…ぉ…っ…」
 胸をまさぐっていた手が凛の腰を引き寄せる。支えを失い再び単葉に腰を突き出す格好になった。肉棒が抜き差し
されるたび、凛の下肢に痺れる様な感覚が走る。愛液が太腿を伝い膝まで滴っていた。単葉の視線が腰を突き出し
されるがままになっている凛に注がれる。華奢な身体を組み敷いてる事に単葉の中の征服欲が満たされて行く。張
り詰めた感覚が極限に迫る。温い空気の漂う廃屋に単葉と凛の吐息が溶け合った。
「双葉…」
 単葉は凛の中で果てた。





 ぐったりと身を横たえた凛の太腿は、溢れた愛液と単葉の精液とで濡れていた。
「双葉の代わりに…あたしを抱くの…?」
 何事も無かったかのように凛の横で煙管をふかす単葉に向かって問いかけた。果てる瞬間双葉の名を口にしてい
た。単葉は一つ煙を吐いて自嘲気味に嗤う。
「代わり…?」
 乱暴に髪を掴んで引き起こされ凛は苦痛に顔を歪めた。単葉と視線が絡む。
「お前が…双葉の…?」
 そう呟く単葉の目が僅かに揺れた。凛の唇に単葉のそれが重なる。煙草のにおいのする舌が絡み付いてくる。単
葉の歯が凛の柔らかな唇を噛んだ。鋭い痛みが走る。
「…!」
 凛の唇に血が滲む。単葉の舌がそれを舐め取る。
「お前に…代わりなど…」
 背を向け再び煙管を銜える単葉をぼんやり眺める。漂う煙を眼で追うと、壁に立て掛けられた刀が視界に入る。手を
伸ばせば届きそうな距離だった。
「黒屋には…近づかない事だな…」
 凛に背を向けたまま呟くと煙管を銜えたまま立ち上がる。壁際の刀を手に取り廃屋を後にする。
「あたしは…っ…!!!」
 闇に消える単葉の背中に投げる言葉が途切れた。
『あたしは…皆の仇を…』
 言葉は声にならなかった。単葉の揺れる視線が脳裏に浮かぶ。

『手を…伸ばせば届いたはずなのに…』
壁にかけられた刀をぼんやりと見つめた。





◆ ◆ ◆


「珍しいな…」

 黒屋に戻った単葉とすれ違いざまに乱造が呟いた。何の事を言ってるのか判らず怪訝そうな視線を向ける。
「珍しいって言ったんだよ…単葉…おめぇが女の匂いさせて戻ってくるなんてよ…。」
 そう言うと薄笑いを浮べながら単葉の腕を指の背でなぞる。爪を立てられた痕がうっすらと紅く残っている。単葉は
心の中で舌打ちした。
「女郎屋とも違うな…お前が出向くたぁ随分御執心なこった…。どんな女か拝んでみてぇなぁ…飽きたら俺にもまわ
せよ」
 腕をなでる指を軽く振り払い踵を返す。背後から乱造の笑い声がする。
『執心…か…。』
 情欲を満たす為に抱いただけだ…。そう思いながら凛の柔らかな肌を、唇を思い返す。
「女ねぇ…」
 障子の陰から乱造とのやり取りを聴いていた双葉が現れる。
「浪人どもを始末しに行った帰りに逢引かい?あんたが珍しいこともあるもんだね…」
 黙って聴いている単葉に歩み寄り、爪痕の残る腕に視線を落とす。紅く細い小さな爪痕には見覚えがあった。単葉
の肩口に頬を寄せる。
「凛…」
 双葉が口にした名前に単葉の肩が僅かに動いた。双葉の唇から含み笑いが漏れる。
「へぇ…そうかい…。凛…ねぇ…一度抱いた位で惚れちまったのかい?」
「は…馬鹿馬鹿しい…」
 双葉の言葉に嘲笑混じりに答える。
「身体だけなら好きなだけ抱けばいい…けどね…惚れたら許さないよ…」
 口元に薄笑みを浮べてはいるが眼には強い嫉妬の陰が宿っていた。双葉の紅い唇が単葉のそれに重なる。
「さっさと風呂でも入ってその匂い…落としておいで。」
 言い捨て背を向け立ち去る双葉の背中を見送る。手の甲で唇を拭うと赤い紅の跡がついた。
『双葉の代わりにあたしを抱くの…?』
 凛の言葉が脳裏をよぎる。重ねた唇の感触を想い出す。
「違う…」

     俺が欲しいのは─────────。