螺旋 【第三話】








「借りは返したからね。」
 捕らえられていた彩女にそう告げて牢を後にした。

 見張りの浪人を何人倒しただろうか…。そろそろ屋敷の中にも異常に気づいて動きがありそうなものだった。
「早くここから逃げなくちゃ…。」
 牢を後にして周囲の気配をうかがう。黒屋の内部には紅屋のそれとは違う肌を刺すような空気が漂っていた。一瞬
凛の脳裏を単葉の存在が掠めた。
『こんな時に…何を…。』
 一刻も早くここから立ち去らなければ…そう思い顔を上げた凛の喉元に冷たい刃があてがわれる。低い声が凛の
耳元で囁いた。
「動くなよ…。」
 凛の背筋を冷たいものが走る。気配も無く簡単に背後を取られていた。刀を抜くいとまもなく壁に押し付けられ、声
の主と眼が合った。
「乱…造…。」
 凛の震える声が男の名を呼んだ。
「ふ…嬉しいねぇ…俺の名を知ってるとはなぁ…。」
「知ってるよ…女殺しばかり専門にやる最低な────!!!」
 髪を掴まれ、頬に刀の切っ先が触れた。
「可愛い顔して…言うじゃねぇか…。ったく…逃がしちまったのか…あのくのいち…。」
 空になった牢に視線をくれ、小さく舌打ちすると視線を凛に向けた。
「や…っ!!!離してよ!!」
 凛の腕を掴み、引き摺るようにして牢の前に連れて行く。腰に下げてある鉤縄を取り上げ、片手を格子に縛り付け
た。乱造が何をしようとしているのかは容易に察しがつく。凛の顔から血の気が引いた。
「いや…!やだやだ!!!」
「折角楽しめると思ってたのによぉ…。紅屋の始末屋さんよ…代わりに…楽しませて貰おうか…。」
 自由になる方の手で抵抗するが軽く捻り上げられた。双葉に射られた肩の傷が鈍く痛んだ。乱造の手が凛の腰に
回され解かれた帯が床に落ちる。着物がはだけ、露になった膨らみを冷たい指が弄ぶように撫でる。
「ふん…まだガキじゃねぇか…重蔵はこういうのが好みなのかね…。」
 乱造の手が下肢に伸びる。固く膝を合わせ震える凛の太腿を撫で回し、開こうとしない脚を抱え上げた。手を縛り付
けた鉤縄を膝に絡め格子にくくりつける。手と片足を上げた状態で縛られた凛の姿に乱造の含み笑いが漏れた。
「素直に脚開かねぇからこういう目にあうんだぜ…」
 唇を噛み俯く凛の耳元で囁くと、縛り付けた太腿を撫で下着の隙間から指を滑り込ませる。慣れた指先が凛の核
心に触れる。指で探ると凛が身体を固くするのが伝わってくる。
「ふ…ん…一寸探っただけで濡れてきたぜ…おまえ…初めてじゃねぇな…。」
「…やめて…よ…っ…んうっ…!!!」
 花芯をまさぐる指が二本に増やされた。奥まで挿入された指が凛の内側を卑猥な音を立ててかき混ぜる。
「ひ…っ…あぁ…っ…やっ…いや…っ!!!」
「は…っ…これのどこが「嫌」なんだ?可愛い顔して…すっかり女の匂いさせていやがるぜ…」



 花芯を指で弄びながら、胸の膨らみに舌を這わせる。うっすらと上気し始めた凛の肌から覚えのある匂いが漂う。幾
日か前単葉と交わした言葉が脳裏を掠める。

 『珍しいって言ったんだよ…単葉…おめぇが女の匂いさせて戻ってくるなんてよ…。』

 乱造が含み笑いを洩らす。凛に鋭い視線を向けて舌舐めずりをした。
「単葉…」
 乱造の言葉に凛の身体がビクリと震えた。潤んだ目で乱造を睨み付ける。
「単葉なんだろ…お前の身体仕込んだのはよ…?重蔵の女に手を付けるとはなぁ…。それとも…お前が誘ったのか
…?ん…?」
「ちが…違う…っ…くっ…!!無理矢理…っ…」
 乱造の指がそれまでとは違う箇所を擦り上げる。滴りだした愛液が凛の下着を汚し始めていた。必死で気を逸らそ
うとするが、女を扱う事に慣れた乱造の指使いに凛の理性が突き崩されつつあった。
「無理矢理…か…?ふっ…それも最初だけだろう?…ほら…もう…指じゃ足りねぇみたいだぜ…。指より…こっちが
欲しいんじゃないのか…?」
 捻り上げていた凛の手を自身の下腹部に導く。膨らみ始めた乱造のモノに凛の指先が触れた。
「…い…いや…っ…」
 乱造の手を振り解こうと抗うが引き戻された。布越しに伝わってくる肉棒の感触に凛の花芯が疼き乱造の指をきつ
く締め付けた。
「えらく素直な身体だなぁ…。そんなにこいつが欲しいのか…?」
「や…め…っ…はぅっ…!!」
 凛の中を掻き混ぜていた指を一息に引き抜いた。袴をはだけ、固くなりつつある肉棒を凛の柔らかな手に握らせ扱
かせる。手の中で脈打ち、徐々に固さを増していく肉棒の感触に凛の下肢が熱くなる。乱造の指が再び凛の花芯を
探る。愛液の溢れる花芯が肉棒を欲してヒクヒクと蠢いていた。凛の手の中で熱く膨らんだ乱造のモノから露が漏れ
掌を汚し始める。肉棒を扱く湿った音と、徐々に荒くなる凛の息遣いが牢の中に響き渡る。凛の手の中で乱造の肉棒
は充分な程に膨らんでいた。
「欲しけりゃ…くれてやるぜ…?…どんな風に…攻め上げて欲しいんだ?言ってみろ…」
 凛の頬に舌を這わせ耳元で囁いた。潤んだ目が乱造の視線と絡む。未だ残されてる凛の理性を突き崩すように花
芯を擽るように擦り上げる。唇を噛み、顔を背ける凛を見て乱造が含み笑いを漏らす。肉棒を扱かせていた手を捻り
上げ格子に押し付けた。
「見かけによらず…強情なガキだな…。そら…いい声で鳴いてみせろよ…」
「…っ…!!!…やっ…」



 肉棒が根元まで一気に突き入れられた。柔らかな肉壁を抉るように抜き差しされる度、凛の華奢な身体がギシギ
シと軋む。
「ひ…っ…ぅ…!!…や…やだ…ぁっ…あっ…あぅ…っ…!!!」
 はだけた着物が肩から落ち、双葉の弓で射られた傷跡が露になった。乱造の舌が傷口を舐め上げる。
「たまらねぇなぁ…女の血の匂いと…喘ぎ声ってのはよ…」
 手首を捻り上げていた手が腰を引き寄せ、凛の奥深くまで肉棒をねじ込む。
「は…ぁ…っ…もぉ…やめ…!!」
 乱造を押し退けようと伸ばした手が、肩口を掴み爪を立てる。
「止めていいのか…?…ん?単葉に犯られた時はどんな具合だったんだ…?」
 凛の脳裏に単葉に犯された時の記憶がよみがえる。拒む事も出来た筈にも関わらず、されるがままに単葉を受け
入れあまつさえ感じていた。単葉のモノを受け入れた記憶と、乱造に犯されている感触が凛の中で交錯する。記憶を
振り払うように頭を振るが、気持ちとは裏腹に熱くなる身体はどうしようもなかった。
「また…濡れてきたぜ…」
 凛の内側の変化に乱造がほくそ笑む。より激しく肉棒を抜き差ししていくと濡れた音が一際大きくなる。
「…ぁあっ…はっ…ぅ…!!!」
 きつく閉じた瞼から涙が零れ落ち頬を伝う。震える唇から堪えきれない吐息が漏れた。
「そろそろ…満足させてくれよ…」
 弱々しく首を横に振る凛に身体を寄せ突き上げた。凛の膝が小刻みに震える。
「…いくぜ…」
 凛が達するのと同時に、乱造のモノが大きく膨らみドロリとした精液が注ぎ込まれる。乱造の手が凛の顎を掴み、
満足げに笑みを漏らし凛の顔を眺める。
「どの道重蔵の女になるならさっさと来れば良いじゃねぇか…黒屋に来れば…こうやって可愛がってやるぜ…?重蔵
の目の届かねぇとこで…なぁ…」
 首を振って乱造の手を振り解いた。含み笑いを漏らしながら肉棒を引き抜いた。



 縛られていた手首の縄を解き、床に崩れ落ちる様にしゃがみこむ。縛られていた手首は擦れて薄く血が滲んでい
た。
「さて…おとなしく捕まって貰おうかな…紅屋の始末屋さんよ…」
 薄笑みを浮かべて凛を見下ろす乱造を睨みつけ、刀の柄に手を伸ばす。覚束ない足取りでゆっくり立ち上がる。膝
の付け根を縛り上げていた縄が床に落ちた。
「嫌だって言ったら…どうするの…?」
 乱造の笑い声が牢内に高らかと響いた。
「おもしれぇ…その身体で俺とやり合おうってのか…?」
 刺すような視線を凛に向け、背中の刀に手を伸ばす。
「腕の一本でも落とせば…少しは大人しくなるか…」
 舌なめずりをして刀を構える。牢の中に張り詰めた空気が漂う。凛が一瞬早く牢の外に動く気配を察知した。
「乱造さん…!?居るんですか?」
 背後から呼ばれ振り返った。黒屋の用心棒の一人の姿があった。
「騒々しいぜ…何だってんだ…」
「例の…双葉さんが捕まえたくのいちが逃げ出しちまって…どうも今大広間の方で鎬さんとやり合ってるみたいなん
で…」
「こっちも鼠が─────…」
 言いながら凛に視線を戻す。そこにあるはずの姿は跡形も無く消えていた。乱造が小さく舌打ちする。
「乱造さん…?」
「いや…何でもねぇ…。鎬の様子でも見に行くか…」
 ゆっくりと刀を鞘に納めると、用心棒の立ち去った薄暗い廊下に出る。壁にもたれ掛かる単葉の姿があった。
「下らない事やってるから逃げられるんだろう…」
 乱造を一瞥するとそう呟いた。
「何…生意気な子鼠に灸をすえてやったまでだ…。もっとも…俺の好みじゃねぇがな…どうせ抱くなら双─────
…」
 言い終える前に喉元に刃が当てられた。
「殺すぞ…お前…」
 単葉の殺気のこもった視線が乱造に向けられる。茶化すように含み笑いを漏らし単葉の顔をしげしげと眺める。
「…双子だけあるな…よく似てる…。その…きつい目つきも…唇も…」
 乱造の言葉に一瞬怯んだ。喉元に当てた刃を跳ね上げられ、身体を壁に押し付けられた。乱造の手が単葉の顎を
掴む。
「双葉に手ぇ出されたくねぇんだろ…?だったら…お前で我慢してやっても良いぜ…」
「離せ…お前の戯言に付き合う気は無い…っ!!!」
 振り下ろした刀が空を切った。身を翻す乱造の髪を切先が掠める。
「二兎を追うものは…って言うぜ…。気が変わったら早めに来いよ…」
 笑いながら単葉に背を向け立ち去った。単葉の舌打ちが静まり返った廊下に小さく響いた。



「…だから…黒屋には近づくなと言ったんだ…。」
 誰に言うでもなく小さく呟いた。刀を鞘に納め、乱造が立ち去ったのと反対方向の廊下に視線をくれる。鎬と彩女が
対峙している今、見張りは手薄な筈だった。裏手に続く廊下をゆっくり進んでいく。
 月明かりに浮かび上がる裏庭に、人の気配は無かった。用水路に流れる水音がやけに大きく聞こえた。単葉の思
考を遮るように水の跳ねる音がした。視線の先にぼんやりと人影が浮かび上がる。
『追って…どうするつもりなんだ…俺は…』
 認めたくない答えが心の奥底にあった。捕らえる為でも斬る為でもなく─────…ただ…凛の肌に触れたかっ
た。

 走り去る人影を追い、単葉の姿が闇に溶けた。