螺旋 【第五話】








 黒屋の大広間はしんと静まり返っていた。先刻まで鎬と郷田のくのいち、彩女とが争っていた痕跡など微塵も無かった。捕らえたくのいちをみすみす逃す羽目になったのは凛の手引きからであった。
「だからあの時殺しておけば良かったんだ…」
 双葉の舌打ちが静かな大広間に小さく響いた。眉をひそめ広間を見回す。酒瓶と杯が目に留まる。双葉が彩女を捕らえ戻った時に乱造が杯を傾けていたのを思い出した。歩み寄り、傍らに腰を下ろす。杯に酒を注ぎ、勢い良くあおる。焼け付くような感覚が喉を落ち、胃に辿り着く。飲み干した口元を手の甲で拭い息をつく。再び杯を満たしあおる。杯の縁に付いた紅を指先で拭う。
「酒泥棒…」
 声のした方向に視線だけを向ける。薄暗がりの向こうに長身の男が佇んでいた。
「…乱造…」
 双葉は心の中で舌打ちした。双葉の心中を察しながらも、薄笑みを浮かべ乱造がゆっくりと歩み寄る。双葉の傍らに膝をつき呟いた。
「ふん…紅屋の小娘にしてやられて…ヤケ酒とはなぁ…」
 ふいと視線を逸らし、杯を床に置く。
「うるさいねぇ…」
 乱造に背を向け立ち上がろうとする。手首をつかまれ引き戻された。
「そう…つれなくするなよ…」
 からかうように笑みを浮かべながらも、手首をつかむ手にきつく力を込める。痛みに眉をひそめ、乱造を睨みつける。
「酒代替わりに─────…」
 言いながら双葉の腕を強く引き寄せ、冷たい床に身体を押し倒す。
「少し…楽しませてもらおうか…」
 広間に乱造の含み笑いが静かに響いた。


「触るんじゃないよ!!」
 羽織っていただけの上着を脱ぎ、抵抗する双葉を軽くねじ伏せ馬乗りになる。両の腕を脚で押さえ込み、床に手を付き双葉の顔を覗き込んだ。
「今度は…邪魔は入らねぇぜ…」
 一瞬双葉が怪訝そうな顔をする。乱造の手が頬を撫でる。身動きの取れない双葉は顔を背け精一杯の抵抗をする。
「単葉なら…紅屋の小娘追ってる頃だろうなぁ…」
 双葉の顔色が僅かに変わる。頬をなぞっていた乱造の指先が首筋をなぞる。双葉が唇を噛む。
「ふふ…その口に…しゃぶらせてぇが…喰い千切られそうだからなぁ…」
 乱造の手が着物の袷に掛かる。襟元を引き双葉の肌を露にする。ひんやりとした空気が豊満な乳房を撫でる。酔いの所為か仄かに赤みの差す肌が、薄明かりに浮かび上がる。
「く…っ…!」
 乳房をきつく揉まれ、双葉の唇から苦痛とも快楽ともつかない声が漏れる。顔を背け唇を噛んで堪える双葉を見下ろし、乱造は舌なめずりをした。袴をはだけ肉棒を露にする。未だ萎えたままのそれを、柔らかな乳房に挟み腰を前後させる。
「乱造…!!や…め…っ…!!…ぅ…ん…っ!!」


  双葉の言葉を遮るように乳首を指で挟み、きつく力を入れる。乳房と擦れ合う肉棒が徐々に硬くなる。胸元を汚す粘液が濡れた音を立て始める。噛みしめた双葉の唇に僅かに血が滲む。乱造の指がそれをなぞる。
「ふ…楽しみだな…その口で…ねだらせてやるぜ─────…」
 両腕を押さえつけていた脚が退いた。衣擦れの音がして、着物の帯が解かれる。痺れる腕で乱造を押し退けようとするが逆に手首をつかまれた。帯の端が双葉の手首を締め付けた。縛られる─────…そう思った瞬間全身の肌が総毛立つ。
「…だっ…誰があんたなんかに─────!!」
 手首に結わえた帯が足首に括り付けられる。立てた膝から着物が滑り落ち、太股が露になる。恥らうように寄せた脚も同じように縛り上げられた。秘部を隠すようにぴったりと寄せた膝に乱造が口づける。帯を解かれ僅かに肌を覆っているだけの着物をはだけさせた。
「観念したらどうだ…?」
 薄く笑みを浮かべながら双葉を見下ろす。乱造の手が太股を撫で、指先が秘部へと伸びる。双葉の身体が僅かに強張る。脚を閉じて拒もうにも手首に繋がれた帯が邪魔をして身動きが取れない。
「…っ…!」
 秘部をまさぐる指先が花弁のようなそれを広げさせる。双葉の表情を眺めながらゆっくりと指を挿入していく。
「もっと慣れてるかと思ったが…案外狭いな…双葉…お前のここ…」
 肉壁をなぞりながら指を抜き差ししていく。徐々に潤い始めた花芯が濡れた音を立て始める。乱造の指先にねっとりとした愛液の感触が絡みつく。双葉の下肢に熱く痺れるような感覚が走る。繋がれ、自由にならない手をきつく握り締める。
「らん…ぞ…っ…やめ─────…っ!!」
 指が引き抜かれた。赤く充血した肉芽を愛液にまみれた指先で軽くなぞってやる。
「ん…?何だ…?」
 小刻みに震える膝を大きく開かせる。愛液に濡れぬらぬらと妖しい光を放つ秘裂が露になる。


「これが欲しいのか…?」
 小さな水音を立て、肉棒の先端が押し当てられる。双葉の唇から吐息が漏れる。弱々しく首を横に振り拒絶の意思を表す。
「い…や…─────…っ…ぁ…あひ…ぃ…っ…!!」
 勢い良く肉棒が押し込まれた。狭い肉壁を押し広げ乱造のモノが双葉の内側を抉るようにかき混ぜる。
「嫌か…?上の口と下の口…言ってる事が随分と違うじゃねぇか…」
 双葉の腰を持ち上げ肉棒を抜き差しする。濡れた音が一際大きく広間に響く。双葉の唇から漏れる吐息に甘い喘ぎが混ざり始める。
「あ…くぅ…っ…!」
 双葉自身男を受け入れるのが初めてな訳ではなかった。重蔵に受け入れられる事の無い想いを持て余し、単葉と肌を重ねる事も度々あった。だが単葉と肌を重ねながらも心の奥で重蔵を想い、決して肉欲に溺れる事は無かった。単葉も殊更求めて来るような事は無い。それは暗黙のルールのようなものだった。
 けれど乱造の加減を知らない行為は単葉とはまるっきり違う。必死に押し殺した双葉の女の部分を刺激し、揺り起こす。
「はっ…あぁ…あ…っ…!!」
 双葉を焦らすように肉棒が浅く抜き差しされる。仄かに赤みの差す肌が薄っすらと汗ばむ。愛液を滴らせる花芯が、肉棒をより深く迎え入れようときつく締め付ける。双葉に引き込まれるままに奥深くまで繋がり合う。
「いい具合だぜ…双葉…紅屋の小娘なんぞより…お前の方が─────…」
 乱造の言葉に反応して双葉の切れ長の目が睨みつける。
「…凛…」
 双葉が口にした名に乱造の口元がゆるむ。
「あぁ…ついさっきだぜ…お前にねじ込んでるこれで…あの小娘相手に楽しんで来たのはよ…」
 乱造の腰の動きが速くなる。肉棒が抜き差しされる濡れた音と、双葉の唇から漏れる吐息が重なり合う。大きく開いた双葉の膝がガクガクと震え始める。
「あっ…!あぁ─────…!!」
 双葉が達する寸前、勢い良く肉棒が引き抜かれた。潤んだ眼が薄笑みを浮かべる乱造を捉えた。
「ふふ…あんまり気持ち良いから…イカせちまうとこだったぜ…」
 双葉の身体を反転させ床に這わせる。冷たい床が双葉の火照った頬に触れる。着物が捲り上げられ愛液に濡れた蕾と秘裂とが露になる。手足を縛られたままの双葉はなすすべも無く乱造の前にあられもない姿を晒す。
「これで少しは…上の口も素直になるか…?」
 乱造の指が尻の割れ目を辿り、愛液に濡れた蕾をなぞる。
「ほら…もっと尻突き出さないと…こっちに入れちまうぜ…?」
 乱造の指から逃れようと腰を浮かす。腰を浮かすことで露になった秘裂を乱造の指が這い回る。
「さっきの続きがして欲しいんじゃないのか…?うん…?」
 指先に絡む愛液が透明な糸を引く。秘裂をなぞっていた指が肉芽を擦り上げ、二本の指で挟み、こねる。少々指先に力を入れすぎても愛液に濡れそぼった肉芽は容易に指の隙間をすり抜ける。乱造は指先に伝わる感触を楽しんでいた。双葉の尻が小刻みに震える。
「こっちは素直だなぁ…ヨダレ垂らしてねだってやがる…」
 含み笑いを漏らしながら内側に指を潜らせる。溢れ出す愛液が既に双葉の内腿を濡らしていた。
「だったら…乱造…早く─────…」
 双葉が掠れる声で呟いた。乱造がほくそえむ。


「早く…?何だ…?」
 双葉の腰を持ち上げ、ねっとりと濡れた花芯に肉棒の先端を押し付ける。
「言えよ…コレをねじ込んで欲しいんだろう…?ん…双葉…?」
 乱造の言葉に眼を伏せる。薄く開いた唇が吐息混じりにねだる。
「早く…乱造…あんたのソレで…あたしをイカせて─────…」
 決して満たされる事の無い想いを埋めるかのように腰を突き出す。酔いに任せあさましい程に求める。秘裂に押し付けられた肉棒が一気に双葉を貫いた。それだけで双葉は達し、乱造のものをきつく締め付ける。
「何だ…?もういっちまったのか…?」
 ビクビクと痙攣する双葉の腰を逃さないようつかみ、激しく腰を打ちつける。抑える事を忘れた双葉の喘ぎ声に乱造の下肢が疼く。一際大きく膨らむ肉棒が双葉の奥深くにぴったりと押し付けられた。
「…っ…あぁ…っ…!嫌ぁ…っ…!!そんな…奥で…出さ…ないでぇ─────…っ!!」
 欲望を吐き出すように双葉の中で爆ぜた。乱造のモノが大きく脈打つ度に温い精液が双葉の奥深くを満たしていく。ヒクヒクと収縮する肉壁が肉棒を締め付ける。
「最後の一滴まで…搾り取ってくれよ…双葉─────…」
 乱造の含み笑いが双葉の耳に届いた。

◆◆◆

 きつく縛られていた手首は赤く変色していた。開いた掌にはきつく握り締めていたのか、爪が食い込んだ痕が残っていた。結い上げた髪は乱れ、汗ばむ頬に張り付いていた。鈍い痛みの残る身体をゆっくりと起こし、頬に張り付く髪を手の甲で払う。壁にもたれかかり杯を口に運ぶ乱造を忌々しげに睨む。
「安酒が…随分高くついたもんだ…」
 双葉の言葉を鼻で笑うと一気に杯をあおる。乱造の手が双葉を引き寄せる。
「…っ…!!何時まで調子に乗って─────…!」
 逃れようとする双葉の顎をつかみ唇を塞ぐ。口に含んだ酒を流し込む。双葉の喉が小さく上下しそれを飲み干す。赤い唇の端から零れた酒を乱造の舌先が舐め取る。
「だったら…釣りをくれてやるぜ…」
 拒もうとする双葉の唇をこじ開け舌を差し入れる。
「んぅ…っ!!嫌だ…っ…!!いい加減に…し…っ─────…」
 双葉の漏らすくぐもった声が徐々に甘くねだるような息遣いに変わる。深く舌を差し入れてやるとチュクチュクと音を立てて吸い返してくる。唇を離すと舌先が唾液の糸を引く。乱造の手が双葉の顎をつかみ顔を上げさせる。切れ長の眼が乱造をきつく睨みつける。

「嫌だ…なんて言えなくなるように…躾けてやるぜ…なぁ…双葉─────…」