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特にエロスな表現は無いのですが大尉がべらぼうに可愛らしいのでこちらに置いておきます。(笑)

18歳以上の方は










- ”L”, it can bring you to the brink -


















 仄暗い灯と薄暗い光の下で、彼女は眼を覚ました。夜明け前、常よりはかなり早い時間。確認のために腕時計を探り当て、薄目を開けて文字盤を見る。濃い霧に包まれたようで何も帰ってこない。どうやら片目のみで見てしまったらしい。二、三度瞬きを繰り返して再度眺めると、見慣れた時計が見慣れた時刻より二回りほど早い時を告げている。時計を適当に戻し、やや深くベッドの中に潜り込む。
 また、少し視力が落ちている。
 盲いるということは暗闇に落ちることではなく、深い霧に包まれるようなものなのだと、それが我が身に降りかかって初めて彼女は知った。目に見えぬほどの速度ではあるが、確実に、月日は彼女の右目から光を奪い、乳白色の霧を濃くしている。その事実に抱く感慨は、無い。ただ今のように時折、進行状況を確認するだけのことだ。無意識のうちに視角や視野は調律されているようで、自覚も無い。
 まだ意識は完全に覚醒はしていない。けれどもう一度眠りの淵までは到達できそうにない。また、そこまで行って戻ってくるには時間も多すぎて、少なすぎる。諦めて半身を起こす。胃に中身をひっくり返した時の違和感。喉には爪を引っ掛けたらしい違和感。爪は欠けておらず、マニキュアも無事。溜息をひとつ。両足を揃えて、ベッドから降りる。通りすがりの姿見に足を止めて、向き直り、身を乗り出して両の瞳をじっと眺める。視力が奪われるほど肌を焼かれて、どうしてその双眸が差異無く残されているのか、彼女には分からない。その辺りの記憶はあまりにも煩雑で、まるで原形を留めていない。しかしそれもどうでもいいことだ。あの時何が起きて、何が起こらなかったかなどを嗅ぎ回るのは、書類好きの官僚共にでも任せておけば良い。若干、他人より目立つ所為で行動に制限は生じるが、敢えて見せつけることによって得られる効果の方を、彼女は好む。
 視線を落とした先には蓋の開いた煙草の箱とライター、灰皿には自分の煙草の吸殻が二つ、別の銘柄の吸殻が一つ。無意識に一本取り出して火を点ける。朝の兆しはまだ遠い。
 吸殻を一つ増やすと彼女はその場を離れた。重い足取りでベッドへと戻る。裾を引くような気だるさが後に続く。膝を付いて体を引っ張り上げ、身を投げ出す。視界を塞ぐようにかかった髪を面倒臭そうに払い除ける。開けた先に映るのは、ただ、霧の中の風景。
 昨夜崩れた均衡を、まだ取り戻していないようだ。いつもは、力づくでねじ伏せてでも自分の身の内と外から追い払うのだが、今はそれすら面倒に思える。その事実に彼女は苛立ちを覚える。しかし状況は変わらない。目を伏せ、まどろみの縁に限りなく近づきながら彼女は思う。いつもの策が有効でないのなら、眠れようと眠れまいと、現状で少しでも目と体を休ませるのが最善だ。幸いにもいつもの起床時間までにはまだ十分すぎるほどの間があるのだから、と。そうして、伏せた目を閉ざした。
 硝子の管の細い先が歯にあたって固い音を立てる、その響きで彼女は眼を覚ました。予測を裏切ってかなり深く眠っていたらしい。その代わり時間はあまり経っていないようだ。目を閉ざしてから三十分前後、どんなに長くても一時間は経っていない。
「――――熱などないぞ」
目を閉ざしたまま彼女は言う。
「昨夜はおありでした」
 聞きなれた低音が慇懃にそれに応える。
「下がるまでは傍におりましたが、念の為です。熱が内に籠る体質の方は測ってみないと分かりませんので。布団も掛けずにお休みになっておいででしたし」
「眠るつもりなどなかった」
「お話にならないでください。正確に測れなくなります」
 ちらりと彼を見上げる。
「お疲れなんでしょう。このところ色々ありすぎましたし。実戦ならばともかく、神経戦は身に堪えます。今日のところは、お休みになっては」
 疲れた、覚えはないが、と、内心で反論しながら同時に彼女は頭の中に布陣を敷く。駒が予定通り動いて対する駒の動きも彼女の予測の範囲内であれば、確かに実戦で彼女がすることは何も無い。相手の動きが誤差の範囲内である限り、対抗策は部下に預けても何の問題も無い。それが彼女の意志に反することは決してない。
 だが、と、彼女は頭の中で頁をめくる。今晩は「会合」があった筈だ。面倒でもあれには出席しなければなるまい。それは「彼女」の仕事だ。欠席することは、決して信頼とは言い難い関係で結ばれている間柄には悪影響をもたらす。理由が何であれ。
 それから――――大頭目スレヴィニンへの連絡。これは彼女だけで進めている仕事。「彼」すら知らない仕事。資料ならば官僚連中に負けないほど十分に取り揃えて提出してある。あとは言葉でもうひと押しかふた押しか。それはちょっとした神経戦ゲーム。児戯にも等しい。
 ようやっと、硝子の枷が外される。そのあまり心地好いとは思えない感触とともに、もう一つ、その日最もうんざりする予定があったことを彼女は思い出した。
「軍曹」
「は」
「今朝の予定は何だ」
「――――まだ少し熱がおありです」
 体温計を振って水銀を戻しながら素知らぬ顔で彼は言う。
「私の質問に答えろ」
 彼は明後日の方向を向いて水差しの水を含ませたタオルで体温計を拭き、ケースに戻す。
「――――頭目ヴォールラプチェフとの会合が。ですがお断りした方が宜しいかと」
「起きる」
 言うより先に体は跳ね起きている。
「――――お止しになった方が」
「馬鹿を言え」
 ベッドから降りかけたところで彼女は語気を強めて言う。
「あの他人を蹴落とすかドル札を数えるかしか頭にないようなKGBチェーカーに付け入る隙など与えてたまるか。ただでさえあんな能無しの呆けた面など拝みたくないのに、それを一日延ばしにするなど、冗談もいいところだ。あの阿呆を一分一秒たりとも待たせてなどやるものか。定刻通り会ってやる。そして可及的速やかに終わらせる。私があの間抜け面にありったけの9mm弾を撃ち込みたくなる前にな」
 目の前に影が大きく立ち塞がる。困ったような、呆れたような、様々な意味を織り交ぜた苦笑を滲ませて、彼が立ち塞がる。
「いずれにせよ支度をなさるにはまだ早過ぎます。どのみち、待ち構えるほどの相手でもありませんし」
「――――成程」
 軽く語尾が上がる。
「それは良い見解だ、軍曹」
 日の光も凍えるような微笑が描かれる。それを難なく撥ね退けて彼は言う。
「それでは、もう少しお休みを」
見咎める間もなく口を挟む間もなく再びベッドの住人に戻る。子供のように首筋まできっちり包み込まれ、挙句、寝かしつけるように布団の上から二度、軽く叩かれる。
 反論は眼差しだけで終わる。
 影が再び彼女を覆い、影のような色の双眸が近づくのを彼女は見、そして唇が柔らかく塞がれるのを彼女は感じる。ついばむような口付けが交わされ、そしてお休みの挨拶を告げる囁きを彼女は聞く。彼が身を起こす気配に慌てて彼女は眼を閉じる。指先が彼女の額に触れる。そっと髪をかき分け、そっと口付ける。彼の気配が離れ、寝室の扉の方へと向かう。扉が音も無く開き、音も無く閉じる。眼を、開く。
 薄い色の瞳に様々な色が揺らめいている。どこにもない痛みを堪えるかのように彼女はきつく眉根を寄せ、きつく口を閉ざす。それでもどこからか言葉はこぼれ落ちる。
 ただ一言、決して――――と。
 全てを打ち消す言葉は、指し示すあても無いまま降りかかる。彼女にも、彼にも。
 彼女は眼の戒めを解き、無表情な天井を暫し眺め、疲れたようにまた眼を伏せた。意識は冴え冴えと部屋の隅々まで行き渡っていたが、今は僅かの間でもよいから、と、逃避を求め、ただ祈るように目を閉じた。






-end-



 軍曹×大尉♪エロ表現無いのに何でこんなにエロいんですかね!!大尉が可愛いよ!軍曹がかいがいしくて可愛いよ!!!
 アニクラ日本編、裏では大尉&軍曹がこんな感じだったのかなとか思いながら見るとまた楽しいですね!うひひ…♪御馳走様であります!!
 今回始めてルビをふるというタグを使ってみたんですがちゃんと表示されてくれる事を祈ります。頑張りましたHIDERO。←頑張り所はそこなのか。でもなんかエラー出てるっぽいんだよなぁ…(泣)





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