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- Fleur de Fleurs - |
その日、彼はロビーで彼女を待つ。決して珍しい事ではない。彼は何も見ない。そして誰も彼を見ない。幾つかの言語が混じり合った会話のさざめきが宙にたゆたう。珈琲と煙草の香りが複雑に交差してそこに入り混じる。彼はそこに座して、待つ。時折奥から昇降機が律儀に階下への到着を告げる音が鳴り響く。 幾度目かに響いた音が彼女の到着を告げる。彼は立ち上がって近付く彼女を迎える。彼女は彼に一瞥を投げ掛け、いつものように当たり前に通り過ぎる。彼もまたいつものように彼女に従い、しかし一言声を掛ける。 「大尉、髪がまだ濡れておいでですよ」 「時間がなかった」 事も無げに彼女は答える。空調の利いたホテルから一歩外に足を踏み出すと、湿度の高い重い空気が彼等を待ち受けている。入口には彼等の車が横付けされている。彼が後部座席の扉を開け、彼女が乗り込む。続いて彼も車中の人となり、何事もなく車は走り出す。 彼等が居住する建物の中はどこまでも暗い。人工の光がどれほど中を照らしても、そこには常に暗さが付きまとう。その中の一室、壁一面を書物が埋め尽くした彼女の執務室。 入るなり彼女は珍しく水差しを手に取りグラスに水を注ぐ。水差しの中で氷がぶつかり合って軽く心地の良い音を立てる。その背に、彼が問う。 「交渉は首尾良く、と言ったところですか」 彼女の手が一瞬動きを止める。しかしまたすぐに変わらぬ仕草を見せる。彼女は一口水を含み、飲み込んで、肩越しに彼を振り返る。 「やけに絡むじゃないか」 開いている手が肩に掛かる髪の一筋を取り、指に巻き取る。 「これが気に入らんか?」 「そうですね」 応とも否とも取れる口調で彼が返す。彼女の皮肉めいた視線をその目で受け取る。やがて彼の口元にも皮肉めいた笑みが浮かぶ。 「ただ少々興味が沸いただけです。『貴女』が、どんな手管で男に仕掛けるのかに」 彼女の目が冷たい光を帯びて細められる。彼女は背を向ける。手にしたグラスを再び口元へ運ぶ。手から手へとグラスを移し替える。 「成程」 やがて彼女は言う。同じ言葉を呟きに変えて幾度か口の端で転がした後、ゆっくりと彼の方へ振り返る。不思議なほど静かな瞳で彼を見詰めると、またゆっくりと口を開く。 「知りたいか」 彼女の目と唇はそれぞれに緩やかな弧を描く。窓辺に佇む彼女の姿はとても穏やかなものに彼の目には映る。それが却って意外な事に彼には思われる。 「聞きたいか」 静かに彼女は言う。緩やかに浮かんでいた笑みは消えて、そこにはどんな表情も見出せない。部屋の中が一層薄暗くなったような錯覚を、彼は感じる。彼女は彼をじっと見つめて、答えを待つ。しかし同時に彼に答える隙を与えようとしない。 「私は」 重苦しい空気の中で何かが軋む。卵の殻が砕けるように軋みを上げる。 「これまで貴様がどんな手管で女をその手に抱き、どんな言葉で女を口説いたのか尋ねた事はない。これからもそれについて尋ねようとは思わない。興味もない。だが貴様はそれが知りたいというのだな?」 零れた水が滴り落ち、絨毯に滲み込む。その音にやや気を取られて彼の視線が反れる。それを彼女は許さない。 「軍曹」 彼女が彼を呼ぶ。口調はあくまでも静かなのに、そこには絶対的な強さが込められている。彼は彼女に従わざるを得ない。 「答えろ」 視線を真っ直ぐに絡ませたまま彼は彼女に圧倒され続けている。自分から仕掛けた戦を只の一手で引っ繰り返されてしまったような手詰まり感の中で、雨垂れのように続く水音は何なのかとふと彼は疑問に思う。幾つかの記憶を交差させた彼はある疑念に辿り着く。彼の立つ位置からは視認することが出来ない。彼は口を開く。 「大尉」 「何だ」 「グラスはどちらにしまわれましたか」 彼の問いを意外なものと受け取ったのか、彼女の眉が上がる。固い表情の彼を面白そうに眺めた後、彼女はまたゆっくりと笑う。 「ここだ」 彼女は左手を前に差し出し、手の平を下に向けて手を開く。赤く染まった破片が砕け落ちる。彼は無言でその手を取り、滴り落ちる血を手の平に受ける。 「髪を洗いたい」 葉巻の煙を漂わせて彼女が言う。 「体も」 「少なくとも今日はお控え下さい」 無表情に彼が言う。意識は硝子の欠片を彼女の掌から取り除く事に集中している。止血はしているものの、ひとつ取り除く度に傷口からはじわりと血が滲み出す。目に見えない破片がそこに入り込まないよう注意しながら溢れた血を吸い取る。 「あそこのアメニティは最悪だ」 彼に預けた片手の事など忘れたように彼女は言う。仕方なく彼は答える。 「分かりました。ですがせめて手当てが済むまでお待ち下さい」 拾い出したガラスがトレイを弾いて硬質の響きを聴かせる。 全ての望みを叶えてなお最後の一片の足りないパズルのような心地の悪さが浴室の空気には流れる。包帯の上に防水用の手袋まで嵌められた手を彼女は何の関心も無くただ眺めている。一仕事も二仕事も終えた彼は、このまま隣に控えているべきかそれともこの場を立ち去った方がいいのかの判断を迷っている。 「手管か」 彼女が呟く。どうでもいいことのように短く笑う。 「そんなものは知らん」 無事な方の手で頬杖を付いて、更に片手を眺める。 「したいようにさせているだけだ。相手は欲求と好奇心を満たす。私は要求を通す。交渉は成立する。めでたしめでたし、という訳だ。他に何か必要か?」 「だからと言って、何故大尉ほどの御方が?」 「だから良いのではないのか?詳しくは奴等に聞け」 「大尉はそれで良いのですか?」 彼女は目を上げ、彼を見る。彼の目と表情を見詰め、彼の方へ首を傾ける。 「もしかして貴様、妬いているのか?」 今初めて気が付いた、とばかりに真顔で問う。 「だが、何故?」 「何故?」 彼が問い返す。 「何故、とおっしゃるのですか?」 彼は繰り返す。皮肉な笑みがその口元に浮かぶ。 「ああ、貴女は御存知ないのですね」 間をおいて納得したように言う。皮肉めいた口調は変わらないままに。 「そう、貴女は御存知ない」 ゆっくりと屈み込んで彼女の手を取る。手当てを終えたばかりの手首を掴む。 「貴女は慕われる事に慣れておいでだ。恋われる事に慣れておいでだ。だから貴女は御存じではない」 握り締めた手首に力を込める。きりきりと締め上げる。 「貴女に焦がれに焦がれる者の思いを、決して手に入れられないと分かっていながら焦がれ続けてきた者の思いを、貴女の髪一筋でさえ触れさせたくないという者の思いを、貴女はお分かりにならない」 彼の手の中で彼女の骨が軋みを上げる。このまま砕いてしまおうか、そんな思いが頭の片隅を過ぎる。 彼女は痛みにやや顔をしかめてはいるものの、黙って彼の言葉に耳を傾けている。何を思っているのかはその表情からは窺い知れない。 彼はその奥にあるものを見出そうとする。彼女はそれに応えようとしない。 短く彼は笑う。 「貴女にはお分かりにならない、その方が良いのかもしれません」 彼は笑い、彼女の手を開放する。 「一方的に恋われ慕われる存在、その方が貴女らしい」 彼は立ち上がり、背を向ける。 一瞬遅れて彼女も立ち上がる。その水音が無意識に彼の気を捉え、足を止めさせる。その横顔に彼女の拳が見舞われる。 予想外の行為に驚きはしたものの、簡単に張り倒されるほど彼もやわではない。よろめきもせず拳を受け止めると、改めて彼女に向き直る。面白そうに彼女を見遣る。 彼女も小気味よさそうに彼を見ている。わざわざ怪我を負った方の拳で殴りつけて、その結果に満足している。目線は彼より低い筈なのに、その目は彼を見下ろす。 「言葉遊びもいい加減にしろ」 彼女は言う。 「黙って聞いてやっていれば何なんだ貴様は。泣き言を聞いてやるほど私は暇ではないぞ。焦がれてただ見ているだけなのか。その程度の男なのか、貴様は。そんな男を私は知らんし、用もない」 背を壁に預けて腕を組む。突き放すように彼に言う。 「焦がれるというのであれば」 口元を吊り上げて笑みの形を作る。 「望め。何か得られるかもしれんぞ」 高慢ともいえるほどの笑みをこぼす。 彼は口元に手を当てる。僅かに唇が切れている。自分の血の臭いを嗅ぐのは久し振りだと彼は思う。鉄錆にも似た香りを彼は味わう。 「おっしゃる意味を分かっておいでですか?」 「知らん」 あっさり彼女は答える。 「私は私の言いたい事を言ったまでだ。貴様に与える意味など問題ではない」 「貴女を縛り付ける事になるかもしれませんよ」 「私を?」 彼女は笑う。 「束縛で得られるものなどあるのか?」 「どちらでも。貴女の感じられるままに」 彼の手が伸びる。壁に凭れかけた彼女の頭の脇に手を付いて身を寄せる。 「狭い」 彼女の抗議に彼は微笑する。 「場所を移す間が惜しいものですから」 「じゃあ服ぐらい脱げ。濡れた布の感触は好きじゃない」 「脱がせてはくれませんか?」 「手が痛い」 彼女はそっぽを向く。 「その前に」 彼女は付け加える。 「この鬱陶しいのを何とかしろ」 先程の弾みで再び出血したのか、差し出された手の平は赤く染まっている。彼はその手を受けて応える。 「お望みのままに」 「血の香りがする」 心地良さそうに彼女は言う。両腕を彼の肩に回した上に自分の顔を乗せている。 「ご自分の血ですよ」 「血は血だ。変わらんよ」 いつもと少し異なる彼の手の感触に彼女は小さく笑う。背中を滑らかに這う彼の手に笑い声を洩らす。こめかみに口付ける彼に笑んだ瞳で応える。 「言わせてもらうがな」 その目を瞬く間に冷たい色に変えて、彼を見る。 「私はお前がいい」 腕に深く顔をうずめて表情を隠す。 「お前でなければ嫌だ」 互いに暫し沈黙する。 「望んだものは得られたか?」 くぐもった彼女の声に彼は答える。 「幾らかは」 「強欲な奴だ」 彼女が吹き出す。彼もまた短く笑う。 「ええ。御存知なかったんですか?」 彼女は身を起して正面から彼と向かい合う。片手を持ち上げ、その指先に流れる血を口に含む。そしてその味覚に満足したように目を細める。 「それで、次は何を望む気だ?」 「それはまた、いずれ」 彼の顔が近付く。彼女は少し顔を傾ける。開いた唇からのぞいた舌先を触れ合わせる。軽く絡み合ったそれを飲み込むように唇を重ねる。 閉ざされた空間に、含むような彼女の笑い声が淡く木霊している。理由は分からないが、今日の彼女は良く笑う。理由は分からなくとも、笑う彼女を見るのは彼も嫌いではない。目が合うと、どうかしたのかと瞳で問いかけてくる。どう言おうかと一瞬迷って言葉を掛ける。 「ご機嫌ですね」 「そうか?」 思案するように瞳を巡らせる。 「機嫌の方はどうか分からんが、面白い。ただ面白い。それだけだ」 「それは私に対してですか?」 彼は苦笑して尋ねる。 「そう思うのか?」 「他に何の理由が?」 「理由など分からんよ。だが」 彼女は彼の首筋に唇を寄せる。ほとんど噛み付くように歯を立てる。反射的に身を引く彼の目を覗き込んで、また笑う。 「ある意味では面白い。確かに面白い」 額を寄せて、笑い合う。彼の手が彼女の体を滑り下りて、彼女の太腿の付根に掛かる。一方の手はさらにその奥へと滑り込む。咄嗟に浮かび上がりそうになる腰はもう一方の手に抑えられている。目を閉じて息を吐く彼女を彼は見つめている。その目蓋が開かれるのを待って、彼は言う。 「私はそれでも構いませんよ。貴女に笑っていただけるのなら」 彼女は少し驚いたように彼を見る。少し上気した頬に新たな朱が差すのを彼は見る。耳まで真っ赤に染めてから漸く彼女は言葉を返す。 「他の奴に見せたりなどするものか」 「それは僥倖です」 彼は笑って熱い彼女の頬に触れる。口付けて、さらに熱い彼女の奥に入り込む。 名残を惜しむように唇が離れる。溜息よりは甘味を多く含んだ吐息が彼の頬に掛かる。彼の手が彼女の胸へ這うのを眉根を寄せて見下ろす。彼女の手が彼の手に触れる。 「まだ」 手の流れに合わせて赤い跡が彼の体を這う。 「待て」 水気を含んだそれはその色を薄めながら流れ落ちる。 「体が、追い着かん」 「そうでしょうか?」 水面がやや大きく波打つ。 「そうは、思われませんが?」 波に沿うように彼女の体もしなう。はたと動きを止め、背を逆撫でるように上る震えにじっと耐える。震える息が薄く開いた口から漏れる。 「待てと言うのなら、私はこれまで十分すぎるほどに貴女を待ってきました。それなのにこれ以上を貴女は望まれるのですか?」 寄せる波返す波が彼等の肌を洗う。絡み合う体も波のように揺らめく。 「待てませんよ」 彼は言う。 逃げ場を失った波に苦しみながらも彼女は眼差しに力を込める。 「言葉で人を弄するのは止めろと言った筈だ」 「人を弄ぶのは貴女の方がお得意ではありませんか?」 「何?」 「自覚がないのがまた罪作りですね」 彼の手は余すところなく彼女の体を這い回り、その感触と返る反応を味わい尽くす。自らを支えきれなくなった彼女が彼の体に身を預ける。熱い肌と肌が触れる。さらに熱い吐息が不規則に彼の胸に掛かり、その含む甘さに彼は満足する。吐息に、時折声が混じる。 水音が立つか立たないかの瀬戸際で彼は彼女を追い上げる。彼女の両の手が拳を作り、一方の拳から新たな鮮血が流れる。その香りが湯気に入り混じって何よりも甘く漂う。釣られるように彼女も甘い声を漏らす。限られた空間にそれは常より甘く木霊する。再び水面がたゆたい、彼等の身もたゆたう。 彼女が苦しみながら目を上げる。彼の目を見て、声にならない声で彼の名を呼ぶ。彼はほんの少しだけ微笑んで、彼女の耳元に口を寄せる。 「まだ、ですよ」 彼女の頭が彼の肩に落ちる。溜息を吐こうとして叶わず、ただ頭を振る。また追い上げられて、目を伏せる。小さく何事かを呟く。彼の手に抱きすくめられて思わず背を反らす。波の打つ感覚がやや短くなる。水音はやはり聞こえない。 ゆらゆらと水面が揺れる。辺りに漂うのは湯気と互いの吐息とそして時折彼女の声。 突然身を強張らせた彼女が目を見開く。その声を最後に彼女は握り締めた拳で口を塞いで、肝心なところで声を殺してしまう。その仕草に内心苦笑しつつ、彼は彼女の一番熱い奥深くへ同じくらい熱い自らを解き放つ。 「熱い。それにやはり狭い」 余韻に耽る様もほどほどに、彼女は彼の体を押し退けようとする。 「いい加減ここから出せ」 手はもう浴槽の縁に掛かっている。彼は相変わらず苦笑して彼女のする様を眺めている。素直に立って出て行けばいいものを、どういう訳か膝を掛けて浴槽を乗り越えようとしている。理由は次の瞬間に判明する。 「大尉?」 見事に浴槽の外側に落下した彼女に彼は尋ねる。 「どうされましたか?」 本当は分かっている。 「湯あたりですか?」 身を起こそうとする彼女の肌は爪先まで紅色に染まっている。 「分かっているなら何とかしろ」 彼女は忌々しげに言う。 「それからこれも」 血の巡りが良くなったせいで中々出血の止まらない手を差し出す。あられも無い、悪く言えば無様とも言える格好だというのに彼女は昂然と頭をもたげている。 恭しく彼は彼女の手を取る。 「行くのか?」 彼女が問う。手当てが終わったばかりの手で早速頬杖を付いている。その問い掛けに彼は首を傾げる。振り返ると彼女はいつものように彼を見下ろして笑っている。 「手を出さんと言うなら、朝までここにいても良いぞ」 「酷な事をおっしゃいます」 苦笑いを零しつつも彼は彼女の下へ歩み寄る。すると彼女はベッドの中を少し移動して、空いた空間を手で叩く。それにはさすがに彼も意表を付かれる。 「酷いですね」 仕方なく、彼は笑う。 「そうか?」 面白そうに彼女も笑う。 「狭くはありませんか?」 「風呂よりは広い」 仕方なく、彼女の隣に横になる。少し距離を置いたつもりが、彼女が脇の下に猫のように潜り込んで来る。また少し意表を付かれる。 「疲れた」 一言彼女が呟く。何か言葉を返そうか、と彼女を見るともう眠りに落ちている。彼女にしては珍しい事だ。彼も含めて、戦場帰りというのは往々にして寝付きが悪い。ただでさえ寝付きが悪いところにこの環境では中々眠りに着けそうにない、と彼は思う。 眠る彼女の横顔を眺める。 「望め。と」 やがて彼は言う。 「望め、と貴女はおっしゃった」 灯りのない部屋で彼はひとり呟く。半身を起こして彼女の横顔を見下ろす。これも戦場帰りにはよくある事だが眠りの浅い彼女にしては目を覚ます気配がない。 「望めと言うのなら」 そこで少し迷う。聞こえはしないと分かっていても、自分の耳にも届く言葉としてそれを口にするのを躊躇う。 「貴女を他の誰の手にも触れさせたくありません。例えどんな理由があっても、私以外の誰かが貴女の髪の毛一筋にでさえ触れるのは、我慢できません」 彼は溜息を吐く。 「望みはそれだけです」 彼女を見遣り、そっと横になる。 それから時計の長針がたっぷり一廻りした後。 暗闇で彼女が静かに目を開く。じっと辺りの気配を探って今目覚めているのが彼女一人である事を確認する。それからそろそろと、慎重に身を起こす。傍らの彼が起き出す気配がないのを更に確かめる。 と、それまでの警戒とは裏腹に、おもむろに立ち上がると無造作に彼を乗り越えて床に降り立つ。部屋を真っ直ぐ突っ切って水差しとグラスの乗ったテーブルへ足を進める。水差しの蓋を開け、中を覗き込むと、中から氷を拾い出して口に放り込む。少し口の中で転がした後、噛み砕く。水差しを手に、床に座り込む。もうひとつ口に含んだ後、また同じように噛み砕く。冷えた片手を代わる代わる両の頬に当てる。 「全く」 煙草に火を点ける。 「言ってくれる」 煙を吐き出す。 「おかげで目が冴えた」 灰皿を取って、煙草を弾く。暗闇の中に煙が立ち上る。 「確かに、言った。『望め』とな。良い望みだな、軍曹」 煙草の火を揉み消すまでの間、沈黙が続く。 「了解した」 彼女もまた溜息を吐く。水差しと煙草とに交互に目を走らせた後、もうひとつ氷を取って口に入れる。そのまままた噛み砕く。 「やれやれ」 苦笑とも何とも言えない笑みを彼女は零す。 |
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同士しきぶ様宅の100hitをうっかり踏ませて頂きましたのでリクさせて頂きましたお風呂でイチャイチャ♪有難うございますーっ!!!相変わらず軍曹の押しが今一つ弱いトコとか、大尉の天然ぶりとかがすこぶる可愛らしくてステキであります♪ 添い寝をせがむのは大尉なりの仕返しなのかしらとか思ってみたりみなかったり(笑)お互いに寝たふり(に違いない!)してるあたりがもう!たまらんね!!ご馳走様ですー♪ |